ズレた駆け引き
家から横浜駅までの道すがら、いつも気になってチラッと覗き込む一軒の店がある。
15年前横浜に引っ越してきたばかりの頃一度だけ入った事があるが、それっきりになっているお店だ。
通りに面した店構えはちょっと洋風という感じのイタリアンを出すレストラン。小さな店内にはガラス越しにいつも暇そうに新聞を手に読みふけるマスターらしきおじさんの姿が見える。時にボーっと壁に掛けられたTVを見上げている。「なんとも危機感のない店だなぁ…」と余計なお世話なコメントをしつつ店の前を通過する。
そんなやる気のない店だけに、もちろんお客さんは少ない。たまに数名入っていると「おっ!」と人ゴトながら反応してしまう。
この店、何が面白いのかというと入り口の前に掲げた“ランチ”の価格。これがしょっちゅう乱高下するのだ。
時に“980円”と掲げていたランチのボードが客が暫く入らないと急に“650円”と下がってみたり、それでも客足が変わらないと更に値下げを断行する。いつも前を通る俺をまるで為替のディーラーの様に「おっ!」とか「あ~ぁ…」とか言わせ一喜一憂させている。これまでで最高(いや最低)価格は“ランチ:350円!”。こんなんでやっていけるのか!大丈夫か!おやじさん!TV眺めている場合じゃないんじゃないのか!と突っ込まざるをえない日々。
かと思うと、やはりこれではやっていけないと思い直すのか、暫くするとまた580円とかに値上がりしていたりもする。人の心理が手に取るように分かる価格の変動だ。
客が来ない原因はハッキリしている。“接客態度の悪さ”と“料理の不味さ”だ。
どんなに価格でお客に駆け引きしても、そんなことではどうにもならない。そんな傍から見たら当たり前に思える事が当事者って意外と見えないもんだ。こういうのを囲碁から来た言葉で“岡目八目”って言うんだよな。
そんなこんなで、いつもの通り道での個人的密かなエンターテイメントなランチ価格。今日通りかかるとそこには、
= 牛すじカレー ¥330 = とあった。
ただただ、あとは応援あるのみだ・・・


